『忍び寄る闇の奇譚』に収録されていた、同題の短編を大幅に加筆修正したもの。
魔女狩りが行われていた16Cのイングランドに、精神だけタイムトラベルしてしまった
脳死患者を救うため、養護施設で育った勇介と、博物館の学芸員・枇杷が、時の旅
へと赴く、という物語です。
過去にタイムトラベルした脳死患者と枇杷の精神は、当時の社会に
おいて虐げられていた、弱い立場の人間に憑依することになります。
いっぽう勇介は、過去の人間に憑依した枇杷を現代に繋ぎとめる「命綱」となり、
過去の状況を、現代にいる博物館のスタッフに伝える中継の役割を担うことに。
彼は、文字や図表を図像として、写真のように記憶できる「視覚記憶」と
いう特殊能力を持っており、その力を用い、枇杷をサポートしていきます。
本作には、タイムトラベルというSF設定が導入されてはいますが、舞台となるのは、
ごく普通の物理法則に基づく過去の世界で、枇杷にはそこで、体力的にも頼りない、
流民の少年の肉体で行動しなければならないという制約が課せられているのです。
さて、本作のミステリ要素は、魔女をでっち上げる魔女探索人が、その正当性を
民衆にアピールするために演出した『奇蹟』のトリックを解明するところにあります。
無実の人間に魔女だと自白させる『真偽の数珠』、目隠しをした状態で、提示された
品物を言い当てる『救済の夜目』、そして、両手、両足に四つの鉄球をつけた人間を
湖に浮かせる『光の舟』――。
勇介と博物館のスタッフは、ディスカッションを
重ね、イリュージョンのタネを暴いていきます。
それにしても、もともと短編だった作品を長編に引き延ば
したためか、展開が性急で、唐突な印象は否めません。
『退出ゲーム』や
『1/2の騎士』にはあった、シリアスなテーマを
中和し、口当たりをよくするコメディ要素がないのもマイナスです。
ただそのぶん、著者の生真面目さがよく出た、良質なジュブナイルだとは思いました。