日本では何ゆえかグラムシ研究者が不釣合いに多い。20世紀のマルクス主義者には多くの偉大な人物がいたのに、ほとんどもっぱらグラムシに偏っている。いわばグラムシ業界みたいものができているのだ。
ところが、そのグラムシ研究者たちがけっして直視しようとしないのが、グラムシが、第3インターナショナルの中ではトロツキーの影響を最も強く受けていたという事実である。そもそも、グラムシを最初に抜擢してその名を国際的に知らしたのは、トロツキーの名著『文学と革命』に掲載されたグラムシの「未来主義者に関する手紙」であった。
グラムシが獄中ノートで縦横に用いている諸概念――分子的、陣地戦と機動戦、ヘゲモニー、同業組合主義、有機的知識人、市民社会、等々――もほとんどがトロツキーから学んだものだ(トロツキーだけからではないが)。
それにとどまらない深い影響を懇切丁寧に明らかにしたのがこの著作である。グラムシ研究者も同著に寄稿しているが、残念ながらグラムシ研究者はトロツキーについて知らなさすぎる。
他方、トロツキーもまたファシズムに関して間接的にグラムシから学んだ。だが、圧倒的にグラムシがトロツキーから学んだ方が大きい。年齢的に言っても当然だろう。それはけっしてグラムシにとって不名誉な話ではない。トロツキーは何よりもパルヴスから学んだが、そのことが何らトロツキーの価値を低めないのと同じである。
だが、この著作が出版されてからも、トロツキー=グラムシ関係を真摯に探求しようとするグラムシ研究者は一人も現われていない。いつまでたっても日本のグラムシ研究が同じカゴの中をぐるぐる回っているのはそのためである。