過去ふたつのレビューの評価が高かったので読んでみました。また、昨年の乱歩賞受賞者の作品というのも、期待した一因でした。
しかし、結論から言うと「大はずれ」でした。警察の内部の描写などが比較的緻密なので、リアリティのある警察小説を期待したのですが、それは裏切られました。タイトルが「トリック・シアター」なので、本格ものとしてのエンタメ要素があるかという期待もありましたが、それもやはり裏切られました。
トリックや謎としては、閉鎖病棟からどうやって抜け出したのか、同一人物がどうやって同時刻に離れた場所で殺人を犯したのか、というのがありますが、前者は本質的な犯罪に関与しないトリックで「トリックを披露するためのトリック」にしかなっていません。後者は序盤、興味をそそられますが、トリック自体はトリックとも言えない程度で、しかも、殺人の動機や手法が極めて非現実的です。終盤でのどんでんがえしなど、カタルシスもありません。
また、組織からあぶれた個性的な警視が登場しますが、これもまずありえない設定です。それでも、それが全体を面白くすることに貢献していればまだよいのですが、さして効果的でもありません。さらには、きわめて重大な国家機密などが絡むのですが、それも最後まで本質的な解決はなく、上滑りになっています(作者はその不気味さを演出したかったのかもしれませんが)。
登場する刑事達の描き分けなどが不十分で、しかも時間軸や場面が入り組むため、いくぶん分かりにくくなっています。ストーリーの本筋はけっこうシンプルなのに、小細工をしたために読みにくくなっていると思います。文字もまばらで決して長くない長編小説なのですが、そのわりにはかなり退屈しました。
せっかく乱歩賞を取った作者なのですが、この程度の作品を書き続けていたら、すぐにファンはいなくなるでしょう。