トラウマ治療では単に優しく接するだけことたりるものではない。このような状況の中で
、どうすれば良いのかといった答えが一つ明確にあるわけではないことは当然である。安
易な答えを求めることは無意味だが、しかし、治療者としてどのようにしても被害者を傷
つけてしまうという無力感は強く、何もできず、身動きが取れないという絶望感に、本書
を読んでいると陥ってしまう。逆転移から理解すると、この無力感や身動きのとれなさは
まさに被害者の体験そのものであると言えるのだが、本書のインパクトある口調を前にす
ると、その逆転移理解すらも薄っぺらく、情緒を排除するための知性化にしか思えなくな
ってしまう。
また、この状況で治療者として被害者に関わることが、一見すると治療だが、実はそれが
暴力的に作用するということもまたあるのかもしれない。というのも、どういう治療を行
うのかにもよるが、基本的に治療は侵襲的なものである。単に癒しがあるとか、すべて丸
く収まるものであると楽観的に言うことはできない。このような中で治療すること自体が
トラウマの再演になる可能性は大いにある。被害者も意識的に傷つくために行動しようと
いうことはないだろうが、無意識的にトラウマを反復したり、罰を進んで受けようとする
ことがある。これらのことを見ると、フロイトの死の本能を連想してしまうこともある。
しかし、反対に反復することは、それを乗り越えようとする動機であるとも言うことがで
き、健康さのあらわれだと理解することもできるかもしれない。このような中で、反復す
ることはダメとか、侵襲的にしないようにと考えるのではなく、そのような状況が治療の
中で起こっているのはどういうことなのかという意味について考え続ける必要があるかも
しれない。