本書は、トヨタが絶好調であった2008年に突如襲ったアメリカでのリコール危機とそれをいかに乗り切っていったかを多くの関係者からの取材で克明に解き明かしていくノンフィクションである。
一連の危機は、セイラー家の事故から始まる。ディーラーが別な車のフロアマットを敷いたことによるアクセルペダルが押され続けたための事故であったが、車載電子機器のトラブルという憶測に基づく報道や、NHTSAの苦情データベース中の予期せぬ急加速という根拠のない報道によって火がついた。
さらに悪いことに、アメリカ国内で使用しているCTS社製の戻りにくいペダル問題が火に油を注ぐ。すなわち、このペダルによる事故の事例が1件も無いことを持ってリコールではなく設計変更を行うという判断を下したのである。
そして、決定的だったのが2010年型プリウスの低速走行時のブレーキがすぐに作動しないように思えるという感覚へのクレームである。
いずれも、根拠のないものであるにもかかわらず、トヨタは正面切って反論証拠を示したりしていない。
そして、2011年2月のNASAによるトヨタの電子系に問題はないという結論でこの危機は幕を引く。
この危機の間、ディーラーを通じた徹底的な顧客サポートもあり、以降、トヨタの顧客は再びトヨタに戻り、業績は回復傾向を示す。
これらの過程で感心するのが、「トヨタはいかなる品質欠陥も決して顧客や部品メーカーのせいにはしない」という態度である。
これは、部品メーカーや生産ライン、ディーラーまで徹底された「顧客第一」という考えがその根底にある。
もうひとつ、忘れてならないのがどのような危機であっても、従業員の解雇や一時帰休をさせずに、その間もカイゼンのための研修を行っていたという事実である。これが、危機からの回復の際に大きな役割を果たす。
もちろん、本書の原因解明の過程の中でもともとトヨタにあった「ゲンチ・ゲンブツ」という企業文化がリコール問題への対処の中ではおろそかになってしまったという指摘は肯ける。顧客の声を十分に聞いていなかったという事実である。だからこそ、危機をチャンスに作り変えることができたとも言える。
どこかこのトヨタの経営は、日本人そのものと重ねあわせられる。ここへきて自信喪失気味の日本人に向かって、もっと自信を持てと言ってくれているようである。
本書に教えられることは数多い。
今、大震災と原発という未曾有の危機に直面している日本にも多くの教訓を与えてくれる。