本書ではまず、豊田家に流れる思想として、二宮尊徳の教えを実践する報徳教について紙幅を割いている。一見、喜一郎とは関係なさそうだが、質実剛健なこの思想が、豊田家、そして今に至るトヨタグループの社風に影響しているところを見ると、避けては通れない。そして、父の佐吉から喜一郎に至る物語が始まるのだが、興味深いのが喜一郎の能力である。父佐吉と同じように、工場でさまざまな機器と向き合っていく過程で、喜一郎も徐々にその能力を開花させていく。
さらに喜一郎が乗用車の開発に至るくだりもドラマ的である。トヨタの本拠地、三河がなせる連想なのだろうか。寡黙ななかに開発の策略を巡らせていく物語は、味方をも欺く戦国武将の物語のような印象も受ける。
もちろん、設計、生産、調達といった技術のことだけではなく、原価計算から人事、販売網づくり、顧客対応、果ては宣伝まで全部自分で考えて行ってきた喜一郎の経営から学ぶところも大きい。今日のトヨタ生産方式のひとつである「ジャスト・イン・タイム」の発想も、論理と実行の人、喜一郎ならではの発想だと理解できる。
乗用車づくりの道半ばにして亡くなった喜一郎であるが、社会のために私欲を捨ててコツコツと働く姿に、昔気質の日本人を見いだす人も多いだろう。だからこそ、将来のある若い人にも手にとってもらいたい本である。(朝倉真弓)
喜一郎は豊田式自動織機を発明したことで有名な豊田佐吉の長男として生まれる。幼い頃両親が離婚、祖父母に育てられたこともあり、頭はいいがおとなしい少年だった。そんな彼がイギリスでの繊維業の没落と関東大震災後の自動車ニーズの高まりを目のあたりにし、紡績会社であったトヨタを自動車会社へと導いていく。
社内の反発から逃れるため工場の一角に秘密研究所を設置してエンジンを開発したり、発売後には連日故障のクレームに追われるなど、決して順風満帆な出発ではなかった。それでも日本の近代化にとって自動車産業の発展が必要不可欠と信じ、自動車づくりに打ち込んでゆく。
自動車産業黎明期の大河ドラマを読み進むにつれ、トヨタ繁栄の秘密を知ることができるはずだ。
(弁護士 木村晋介)
(日経ベンチャー 2003/01/01 Copyright2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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