2009年に、百名山の一つである北海道大雪山系のトムラウシ山で8名が亡くなるという大量遭難が起こりました。生還者の一人がネットで盛んに活動したこともあって当時は大きな注目を集めましたが、一年もたつとマスコミでは全く取り上げられることがなくなりました。この本はトムラウシ山大量遭難の教訓を後世に伝えようとするものです。大きく四部に分かれており、第一部は遭難の経過を追ったドキュメンタリー、第二部は生還したガイドの証言、第三部は気象学および医学的な解説、第四部はツアー登山に潜む危険性の指摘と将来への提言となっています。
執筆者のうち、羽根田さん以外の三名はトムラウシ山遭難事故調査特別委員会のメンバーであり、トムラウシ山遭難事故調査報告書の執筆に関わっているようです。そのため第三部は報告書とかぶる部分が多い一方、かなり専門的な内容がなかなかわかりやすく書かれています。第一部は報告書に加え独自の取材を行った結果を足してあり、当時の新聞記事の誤りや報告書と証言との食い違いが明記されています。第二部は「山と渓谷」誌の記事を少し膨らませたもの。第四部の執筆者である羽根田さんは、ツアー登山の危険性を訴えたところアミューズ社から干された経験をお持ちで、「業界」の生々しい姿を描いています。
一般読者的には、遭難の経過に引き込まれます。力つきたガイドに罵声を浴びせつつ山を下っていく客もいれば、70歳近い高齢をおして自発的にガイドと留まり一人の命を死の淵から救い上げた大ベテランもいる。中でも、たまたまツアーで一緒になっただけの同行者を励ましながら山を下り、同行者が亡くなった後も遺体を守って一夜を共に過ごした方の姿には、淡々と描写されるだけになおさら胸を打たれるものがあります。