まず、8月の終わりにこんな単行本を出すなんて、やられたなぁという感じです。発売日に買ってその日のうちに読破しましたが、まぁ終わりゆく夏が惜しくなることこの上ない!
もちろん、いつ読んでも楽しめる1冊であるとは思いますが、日が長いうちに読むと、より一層余韻が味わえると思います。
私は原作である「トム・ソーヤーの冒険」は未読なのですが、何の問題もなく作品を楽しめました。私と同じく原作未読の方、ご安心下さい。
物語の中心人物は、別居していた母親が死去し長崎に里帰りした美大生のハルと、訳あって長崎の親戚宅に兄妹で預けられている中学生のタロ。
2人はふとしたきっかけで知り合いますが、それからすぐに2人して殺人事件を目撃してしまいます。その場から逃げ出した2人は誰も居ない教会へ逃げ込み、「ふたりはこのことを永遠にだまっていると誓う もし誓いをやぶったら死んだっていい」という宣誓書を書いて、各々自らの血で署名をしました。この一件が、すべて一夏の冒険へとつながっていきます。
冒険といっても色々ありますが、まぁ海賊王(本家本元の麦わらさんもちらっと出ていましたが、モザイクかかってました)ありのお宝ありの無人島ありの探偵ごっこありの…なんでもアリです。
読み終えての印象としては、主人公のハル・タロはもちろんのこと、タロの友人たちやその家族、近所の人々など、キャラクターがきちんと出来上がっていてとても読みやすいなぁ、と思いました。「あぁ、こんなことありそうだね」というすれ違いや、互いに分かり合っているような分かり合っていないような、個々に成長しているような成長していないような各キャラクターの言動は、妙にリアリティがあります。
ただ、高橋しんさんのマンガでちょくちょく出る「唐突すぎる表現」がやはりあったので、この部分だけは☆をひとつ減らしておきます。個人的にはちょっといただけないので。
「トムソーヤ」において、ストーリー以外に私が特に気に入った点は2つ。
まず画面での天気や明るさの表現。これは本当に美しいの一言。まずキラキラと眩しい表紙から目を引かれますね。
中身では、写真をコンピュータ処理して使っているだけある美しい背景や、その場の実際の天気・明暗に加え、場面に登場している人物の感情などにも配慮した効果がかけられていて、本当に素晴らしいです。
それから方言。舞台が長崎であるので、登場人物は9割がた方言です。高橋しんさんの作品では「最終兵器彼女」「きみのカケラ」を読んでいるのですが、それら(北海道弁?)とはまた違った雰囲気の方言が味わえます。
ちなみにスタッフのクレジットには、やはり方言指導の方の名前が載っていました。方言好きとしてはセリフを「なんとなくのエセ方言」で書かれていないのが嬉しいところです。
お値段は張りますが、その分読み応えのあるページ数ですし、この一冊で完結していますので、興味を持たれた方はぜひ読んでみて下さい。
「トムソーヤ 君は、あの夏の名前。」
作品を読み進めて最後のページへたどり着いたとき、切なくも清々しい、素敵な余韻を与えてくれたフレーズです。高橋しんさんの作品は相変わらず、詩的なモノローグが秀逸ですね。