真夜中に古時計が十三の鐘を打つ時、その庭園はあらわれる……。せっかくの楽しい夏休みに、弟がハシカになってしまったためによそのうちに預けられることになって、ふてくされるトム。
眠れない真夜中の寝台の中で聞いた十三時の鐘。アパートの裏口の扉をあけると、そこには花壇と、芝生と、モミやイチイの木が茂り、大きな温室のある――庭園が拡がっていました。
そこで少年は、ちいさな少女に出会います。
夜ごと、あらわれる庭園。つまらないばかりだと思っていた夏休みが、1日1日、飛ぶように過ぎてゆきます。小さな少女が、トムと同じ年頃になり、次の日にはまた少しお姉さんになり、大人の女性へと変化してゆきます。彼女の目に映るトムは、しだいに間遠になり、希薄になってゆきます。
時間がもう長く続かないことを、トムは目を向けてくれなくなったかつての少女、ハティの姿に悟らされます。
悲しみにくれて少女の名を叫んだ最後の日、運命の中にはもう一つの出合いが用意されていました。
成長し、色々なことに気付いていく少年の、喜びと悲しみ。
人生をよく生き、色々なことを知り、長い時を過ごして来た老人の、静けさとほろ苦さ。
時と年齢を越えてふれあう魂。
類型的な物語は多いと思いますし、おそらくは、この作品を元にしたであろう作品にもしばしば出会います。それらにくらべれば確かにこの作品は、原型であるがゆえにシンプルで、オーソドックスです。最後の展開も容易に想像がつきます。
しかしこの物語は、その単純な結末に、豊かな詩情と穏やかな感動が有るのです。舞台である英国の庭園の、何と魅力的なことでしょう。小説と言うのはもちろんストーリィは大切ですが、同じようなストーリィを別物にしうるものは、やっぱり空気感、世界観なのかなと思わされます。
登場人物が立っている姿をその大地ごと、空気ごと、庭園ごと愛しいと思えるからこそ、この物語は活き活きと実在し始めるのだなと。