トスカニーニの全体像をつかむうえで、今の日本で手に入る唯一の書物といえる。
ほかに指揮者の渡辺 暁雄氏の訳によるタウブマンの伝記がある(「トスカニーニ―生涯と芸術」)が、これはトスカニーニの引退直後、存命時に書かれたもので不完全なところがある。
この本には出典文献索引が欠けている。本来ならば評伝としての価値を損なうものだが、実は、その代わりに詳細なディスコグラフィーが載せられている。それは年月日順に録音場所等を詳述した実に綿密なもので、各々にまつわるエピソードも添えられておりその出典がついている。本文以上にこのディスコグラフィーを注意深くお読みすることをお薦めする。
本書あとがきで著者の諸石氏が正直に明記しているが、このディスコグラフィーと「生涯編」はトスカニーニ研究家の三田晴久氏によるものである。恐らく写真やレコードのジャケットなども三田氏の提供によるものなのだろう。本書の価値は、本文以上にこの素晴らしいディスコグラフィーと図版にあるといってよい。