プッチーニ作曲の歌劇
『トスカ』上演中、主役のトスカが、悪役スカルピアの
首にナイフを突き立てる第二幕のクライマックス・シーンで、事件は起きた。
小道具のナイフがいつの間にか本物にすり替えられていた
ために、相手役のバリトン歌手を殺害してしまったのである。
さらに、演出家が記者会見で
『トスカ』の前例のない
新演出を予告した直後、第二の殺人事件が起こり……。
第一の事件は「計画犯による《操り》の失敗が招来した不可能状況」という様相。
己の身勝手な思惑を無理矢理他者に押し付けようとした
計画犯を見舞う、“時限式の運命の皮肉”が、秀逸です。
また、ナイフすり替え犯のフーダニットに関しては、ぬけぬけと犯人の条件を提示
しながらも、それを読者に気づかせない巧妙なミスディレクションが目を引きます。
読後に思い返すと、随所に伏線が張られていたことに気づくのですが、作者の念の
入った“あらため”に騙され、ついその存在を容疑の圏外に追いやってしまうのです。
一方、第二の事件では、犯行現場の鏡に口紅で書かれていたオペラの歌詞
〈これがトスカの接吻よ〉と、死体が、両手を交差させた奇妙なポーズをとって
いたことの意味を解釈していくことになります。
犯人による見立て(犯行声明)なのか、被害者によるダイイング・メッセージなのか、
様々な解釈がなされますが、それをそのまま本作のテーマであるテキストの読み
替えによる解釈の多様性(「誤読する権利」もしくは「夢見る権利」)と結び付けて
いく構成が素晴らしいです。