時は1490年、オーストリアの村エーゼルドルフ(愚者の村)の古城で印刷屋を営む一家に宿無しの少年が訪れ、こう名乗った。「第44号。ニュー・シリーズ864962です」。語り手の印刷工見習いアウグストの目を通して、異能を持つ「第44号」が巻き起こす波乱が強い宗教的寓意を伴って綴られる。従来版は第三者の改竄があった由だが、恐らく宗教に係わる部分だったのではないか。
既出の名を含め、登場人物名・地名は聖書からの引用あるいは象徴である。「第44号」は読心術を駆使し、誰からも教わらないのに印刷工程の作業をマスターし、印刷工達がストライキを起こすと彼らの「複製」を創って、滞りなく作業を済ませる。印刷工達の怒りと畏れを買った「第44号」は、一家内に居候する自称魔法使いの熾した炎で焼かれる...。明らかに、「第44号=キリスト」の位置付けである。時代・舞台設定も、グーテンベルクの印刷技術(=複製の技術)の発明直後という意味に加え、"中世の黒魔術"の雰囲気を漂わせるとの意味合いもあると思う。そして、「複製=束縛された「日常の自分」に対する「夢の自分」」の意らしく、元型と複製との争いは耐えない。
そして勿論、「第44号」は「復活」する。「第44号」は「人間は気の毒な種族」と宣告し、村のアードルフ神父の過去の愚行などを時を越えてアウグストに映し出す。また、アウグストは自身の「複製」シュヴァルツと恋のライバルとなり、「第44号」に相談するが、答えは無慈悲なものだった...。聖書的枠組みの中で宗教の通念を徹底的に揶揄した作品。寓話的状況を用いて、時空を超えた真の自由・魂の解放を謳うと共に、「想像力の産物」という考え方を強調した作品とも言える。