コールガールのアラバマと結婚した青年クラレンス。妻のヒモだった男をとっちめようと向かった先で「コーク」を手に入れたばかりに、話がおかしな方向へと転がり始める。役者をしている友人を訪ねてハリウッドへ逃走したクラレンスたちをマフィアが執拗に追ってきて…。
開巻一番、ソニー千葉が話題になるあたり、まさに「タランティーノ節」全開。全編を貫く徹底したバイオレンスに圧倒されることしきりなのだけれど、なぜか不快感が後に残らないという不思議な魅力を持った作品です。
パトリシア・アークェット演じるアラバマが、追っ手を返り討ちにする場面が実に圧巻。ライフルを振り上げて激しく泣き叫ぶ彼女の姿を真上からの俯瞰カメラで捉えた短いショットに心揺さぶれます。図らずも人を殺してしまったことへの深く悲しい悔悟。と同時に暴力に対して人間が本能的にもつ野生の快感。そうしたものがない交ぜになったあのショットは何度見ても痺れます。こういう演出が出来るのは、脚本が秀でているのか、役者が一枚も二枚も上手なのか、監督が手練れなのか。おそらくはその三位一体がなせるわざなのでしょう。邦画「ホワイトアウト」で松嶋菜々子が追っ手に向けて淡々と銃を放つあまりにお粗末な姿を目にしたときも、パトリシアの<魂が突き上げるような>あの激しい演技のことを思い出したものです。
主人公二人が将来Cancunへ行きたいと語り合う空港のシーンがありますが、字幕が「キャンクン」となっています。日本語吹き替えでは「カンクン」と言っていますが、そちらが正解。字幕担当者はカンクンという地名を耳にしたことがないようですね。「キャンクン」なんて一体どこのことを指しているのかと一瞬迷いました。ベルリンをバーリンと表記するようなものです。中途半端な字幕では、メキシコへの逃避行がこの空港の会話を受けたものであることが理解されないのではないでしょうか。