現在、地方自治体、大学などの運用にはデリバティブが深く入り込んでいます。本書は、特にPRDC債やFXターン債などの仕組債が「投資詐欺」に近い、と名指しで非難しています。書いてから講談社に出版をお願いした、という本らしく、著者の危機意識が強くあらわれた文章(やや感情的な文章)になっています。この本では、仕組債の詳細までは踏み込みませんが、その挙動や問題点についてはとても平易に解説されています。筆者の吉本さんでも、こういった仕組債の中には危険性を見抜くのに何時間もの検討が必要なものがあるそうです。
地方自治体などが買いまくっている仕組債は、金融工学により安全偽装されているため、これから大惨事になる(可能性が高い)、という論旨です。駒沢大学や慶応大学の事件のように表に出たものは氷山の一角で、東大や京大などの有名大学や神戸市、大阪市、松山市・・・などなどヤバいところはいっぱいある、と名指しされています。
仕組債にはいろいろあるようですが、(1)円安になったら高金利が得られ、円高になると0%近い金利になる。(2)円安が続いて高金利が続くと早期償還される(もちろん元本保証)(2)円高になると30年後に満期償還。低金利で引き出しもできないので塩漬けになるが元本は保証される、というのが典型的なパターンです。元本保証だしうまくすれば高金利(&早期償還)なのでローリスクハイリターンにみえます。しかし、下手をすると長期間解約できないというリスクが問題です。もし、日本の物価上昇率がアメリカの物価上昇率を下回るならば、いずれ長期的には円高になり塩漬けコースにはまります。しかも、通常、日本の物価は30年後に上昇しているので、30年後に帰ってくる元本は実質的には目減りすることになります(ほぼ消滅の可能性すらある)。いいかえれば30年後の元本の現在価値はかなり小さい。あるいはうまく円安になり高金利が連続した上で10年後に償還されたとします。でも、10年後の円安時代(たとえば1ドル1500円のように円が減価した時代)に元本が戻ってきてもやはり目減りすることになります。円安により短期間で早期償還されるのが唯一のハッピーシナリオですが、このときの好成績に気を良くした投資家はまた仕組債にカネを突っ込み、今度は塩漬けコースの泥沼にハマってしまうかもしれません。こういう仕組債を売る証券会社の営業マンもリスクを理解していないようです。更に、30年塩漬けコースになったときに金融機関がちゃんと管理してくれるのか・・・という問題もあります。しかも、金融庁は、昔の大蔵省のように金融商品を許認可するよりも、投資は自己責任という原則で対応しているようです。
こういう告発本を書くのはかなり勇気がいると思います。メリットの裏にある負の側面をちゃんと直視(比較衡量)しないというのは原発問題と構造的に似たところがあるような気がします。本書は「デリバティブ=悪」というわけではなく、「デリバティブがあるからハッピー」というほど甘い話はない、という論旨だと思います。