言わずと知れたホラー映画の古典ですが、トーキーの極初期の作品で、この時期の作品にしかない特徴があります。それは、映画の中で聞こえるのが、台詞や環境音など「リアルな音」のみであり、BGM(伴奏音楽)が存在しないということです。この時期(1930年代初頭)の多くのトーキー映画では、場面に音源のある「リアル」な音しか用いなかったのです。人物の心情や場面の雰囲気をBGMで表現するという、現在では当たり前の技法が使えなかったということです。音楽はコンサートやパーティ会場など、出演者の誰かが楽器を弾くシーンでしか流れませんでした。「リアルでない音」を流すと、観客が「この音はどこから来るのか」と不自然に感じると考えてのことだったとも言われますが、サイレント映画時代、観客は全編「リアルでない」伴奏音楽を聞きながら映画を観ていましたから、観客が「リアルでない音」に慣れていないということはないはずです。だから、問題とされたのは、「リアルな音」と「リアルでない音」が混在することだったのでは、と思います。
BGMで雰囲気を盛り上げる手法が使えないのは、特にホラー映画では非常に大きなハンディです。同時期に同じような制限の下で作られた「魔人ドラキュラ」などは、それがずいぶんマイナスに働いています。しかし、この「フランケンシュタイン」では、それがハンディになっていません。BGMがないことに気づかない人もいるのでは(僕自身3回目の鑑賞で初めて気づきました)。冒頭の墓場荒らしを始めとして多くの場面で繰り返し響く鐘の音、そして、雷鳴や暴風の音は言うに及ばず、群集のざわめきにいたるまで、様々な環境音が巧みに用いられて、BGMに劣らない効果を挙げています。「フランケンシュタイン」はホラー映画の古典としてはもちろん、トーキー初期、BGMを使わなかった時代に環境音の持つ表現力を有効に使った映画の代表作という点でも映画の歴史に残る作品だと思います。