2005年に閉店した雑貨ショップ「デポー39」の中心人物である天沼さんが書き下ろしたエッセイ。私自身、アンティックものは好きだが買うことはあまりありません。誰が使ったか、どういう歴史があるのかを考えると少し気味が悪いのです。アンティックショップや古道具屋に入ったときのあの独特の雰囲気も少し怖い。この本を読もうと思ったきっかけは冒頭にあった次の一文。
NYに渉ったのは33歳になる直前でした。それまでの数年間、貿易会社で働きながらアルツハイマー病におかされた母の看護をしていました。<一部略)まわりの偏見や高い入院費との戦いで、20代の中ごろからの数年間を費やしてしまったのです。母が亡くなり、すべてが終わったとき、学生時代に映画や雑誌で見て憧れていたアメリカに、「逃げてしまいたい」という気持ちでいっぱいでした。できれば日本に戻りたくないという気持ちが強かったので、きちんと学校に行く事にしました。・・・・
積み重なった疲労、空虚感、悲しみ、希望、安堵・・・・
そのときの著者の心境に思いを馳せると読まずにはいられなくなりました。
理解あるオーナーに恵まれたということもあるでしょうが、これほどまでに思い通りの店作りをしてしかもほとんど成功していくのは、ご本人の能力の高さもさることながらその経営哲学にあると思います。
ショップスタッフへのお小言カードというものが時々でてきますが、「お客様とは対等に、お取引先さんには腰を低く」「お店というのは糠味噌と同じ、毎日手を入れないといけないのよ」等、おもわず頷きたくなるような言葉がちりばめられています。
この店自体、経営は順調に行っていたにもかかわらず20年で自ら閉店し、運営上、重要なスタッフも数ヶ月から長くても12年位店に関わっているだけのようです。それぞれが退社後、自分の道をしっかり築いて歩んでいるわけですが、その執着のなさにも驚かされます。
かなり面白い店だったのでしょう。一度も訪れなかった事を少し残念に思います。