「ビギナーズ」と題名にある通り、初心者向けの「信号処理」の解説書だが、文字通りの初心者である私にとっては大いに役に立った。アナログ信号とデジタル信号の相違とその間の変換の必要性から始まって、デジタル信号処理の基本概念・技術、ハード構成を含めたD/A,A/Dコンバータ、そして信号間の類似性(相関性)まで、「信号処理」に必要な知識・技術を一通り分かり易くカバーしている。
技術論文の翻訳をしていて、(恥かしい事だが)何気なく字面だけを用いていた用語が本書によって有機的に結び付いた。信号の表現方法として、時間領域と周波数領域がある事。時間領域における時間的離散化がサンプリングで、振幅的離散化が量子化である事。移動平均(averaging)に時間遅延が伴う事。周波数領域における側波帯、フィルタリング、エイリアシングの意味。デルタ関数、伝達関数と言った(本書で意味を知った)便利な関数(概念)。時間離散的表現を周波数の世界に移すz変換。有限・無限インパルス応答や畳込みの意味及びそれらのデルタ関数、伝達関数との関係。そして、信号検出や雑音除去方法としての(自己)相関関数。これらの説明が、厳密な数式(妥協はない)と分かり易い図例とで丹念に説明されている。BASIC(Visual Basicではない)によるプログラミング例も付いている。
「信号処理」が数学の解析・統計的手法と深く結び付いている事も実感出来た。また、最新の技術論文の読解体験を振り返っても、本書の内容を大きく逸脱する所は無い様に改めて感じた。その意味で、「信号処理」の基本を習得するには好適かつ実用的な入門書だと思う。