バブル経済が崩壊した後、1990年代へ入ってからの日本経済の成長率は著しく鈍化し、OECD諸国全体の成長率を大きく下回っています。これに反し、米国は見事なまでに経済復興を果たし、一方では中国が日本の20分の1とも言われる低廉な労働コストを武器に世界諸国の工場として機能し、高度経済成長を遂げてきています。この両国に代表される国際経済状況の中で、わが国が産業競争力を回復し、国際競争に打ち勝つためには、高度な「ものづくり」の力とともに技術やデザインの知的財産権が、とっておきの切り札になると言えるでしょう。そして、日本固有の精神性豊かな伝統文化に根ざしながらも、先端的な時代感覚と国際感覚を備えたみずみずしい日本人の美意識と感性が、今後、世界の中で注目され、産業界で高い評価を得ていくことに多くの期待がかかっています。
知的財産権は、人間が生み出す技術、デザイン、コンテンツなどのさまざまなアイデアや創作物を法的に保護するものですが、従来、技術至上主義と言える工業化社会にあっては、技術を対象とする特許権に多くの関心が向けられてきました。しかし、時代の重心は工業化社会から情報化社会へと大きくシフトし、人間が生み出すアイデアや創作物は「もの」だけでは捕捉できない時代になり、社会と生活者が求める価値そのものの本質が変わりつつあります。
政府の知的財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画」は、このような時代の変化を十分捉えた上で、知的財産権の創造、保護、活用、拡大、人材育成の各章から構成された戦略計画です。国を挙げての知的財産権重視の、この大きな時代変革のうねりの中で、デザインという知的財産価値を生み出すデザイナーはどのように掉さすことができるのでしょうか。
わが国においては、おおよそ1950年代に形態と色彩のプロフェッショナルとしてインダストリアルデザイナーが産業界に登場し、当初は材料や構造を含めた設計と生産活動に参画しました。それ以来、時代の進展とともに、営業やマーケティングの分野へ、また企画の重要なメンバーとして、さらに近年では経営にタッチするまでに専門能力(職能)を高めています。このような能力を持つデザイナーが、わが国が迎えようとしている知的財産立国の時代に、経営や社会への貢献度をより高めるためには、知的財産価値の高いデザインを生み出すこと以外にどのようなことができるのでしょうか。本書では、デザイン知財の核とも言うべき意匠権、とくに意匠登録出願の戦略性を中心にして、いくつかの視点から考察が進められています。
これまで40年間にわたって、企業においてインダストリアルデザインと意匠権管理を担当し、また、大学へ転じてからはデザインマネジメントと意匠登録出願の戦略的構造について研究してきた筆者の知識と思索の一端を紹介する本書が、将来の知的財産立国へ向けて読者の参考になることは間違いありません。
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