この本の主題は宮沢賢治における狩猟民感覚の形成過程というものだろうが、その賢治の独自の感覚が生み出されていった背景に「風」という宇宙の彼方から吹きつける元素が重要な役割をはたしているのではないかと著者は主張する。賢治作品における「風」の意味と賢治という人間の内部に吹き荒れていた風の万華鏡を論ずるだけでなく、その「風」がいつしか彼の狩猟民的な感覚と深い共鳴を響かせていることに著者は惹きつけられていく。
夏目漱石から柳田国男、中原中也、萩原朔太郎、折口信夫らのみならず「平家物語」に「万葉集」、新渡戸稲造の「武士道」まで繰り出しての比較研究は圧巻で、著者の博覧強記ぶりには驚かされる。今は歴史の中に埋もれてしまったが「岩手のトルストイ」と書かれたことのある斉藤宗次郎の存在は異彩を放つ。