14世紀中頃、フィレンツェで流行したペストから身を守るため、近郊の別荘に避難した高貴な男女10名が、一夜に全員一話づつ合計100の秘話を語るという体裁の作品。この「百物語」を「デカメロン」と呼ぶらしい。本作を単なる艶笑話と考えていた私だが、読んでみて、ルネサンスの精神である「人間性の発揚」をテーマにした作品だと認識させられた。上巻は5日まで、下巻はそれ以降という構成。
語られる物語は、一話が短いせいもあるが、かなり他愛のないものである。小説技巧も稚拙と言って良い。しかし、そこには常に権威(高僧、大貴族など)への風刺・批判があり、代って礼賛されるのは人間が本来持っている自由、肉欲、享楽性そして機知である。物語には、高齢の権力者が、恋する若い男女の機知によってコキュ役を演じるパターンが多い。旧来の封建的特権階級に代って、市民層が台頭してきた当時の社会状況の反映である。ただし、ボッカッチョ自身は無神論者だった訳ではなく、"腐敗した"宗教界への批判を込めたらしい。作中に頻繁に登場する性に関する論議・描写はアッケラカランとして明るさに溢れている。性愛も人間が本来持つ特質なのだ。
ルネサンスが、絵画・彫刻だけではなく、文学を含めた精神の革命だった事を教えてくれる貴重な作品。