芸術的なその戦法によって、幼少時から数々の大会で勝利と名声を重ねてきたチェスの天才、ルージン。ある重要な試合半ばにして極度の緊張から神経を病むが、彼の純粋さに惹かれた女性と出会い結婚、妻の献身的な愛情によりチェスから離れ静かな人生を歩み始める。しかしチェスという魔物は決してルージンを放ってはおかなかった。そしてある日ついに―。
「ロリータ」の作者として知られる亡命作家ナボコフが、母国語であるロシア語で書いた初期の傑作。チェスの棋譜さながらの周到な伏線、重厚で高度な芸術性、ユーモア、悲劇性などの多彩な魅力に加え、ロシア文学ならではの幻想的な陰影が独特の深い読後感を残す。日本ナボコフ協会会員であり、国際チェス連盟による日本人初の「プロブレム(チェスの詰め将棋のようなもの)解答国際マスター」の称号を持つという翻訳者、若島正氏の誠実で読みやすい翻訳と解説も素晴らしい。