オバマが就任した2009年1月20日の世界を、132人の写真家が各地で写し取った写真を集めた一冊。お題は”Hope”。ずいぶんいろいろな希望のかたちがあるものだと感心するが、それよりなにより、ある一日の世界を、写真家のフィルターを通してにせよ、こんなにも雄弁に語ってくれる一冊をぼくは見たことがない。
オバマが就任したその日、春節前の中国では出稼ぎ労働者が故郷の家族のために買い物をしている。もちろん彼らはオバマのことなんてぜんぜん知らない。ジンバブエでは靴を繕って日銭を稼ぐ(それも1ドルとか、その程度)おじさんたちが、就任式の日も普通に靴を縫っている。その靴は、誰が履いていたのか知れないが、長い使用のあとを物語り、ぼろぼろという言葉がぴかぴかに見えるくらい古びている。
誰かが新品の靴を履いていっちょうらを着て過ごす特別な一日は、世界の大多数の人にとっては履き古した靴を履いて過ごすありきたりの一日なのだ。「希望」の写真たちが逆説的に描き出すのは、世の中がありきたりの苦悩に満ちているという事実。晴れの祭典が行われている中、人々はいろいろなことで悩んでいる。一方、悩みがなければ希望はない。ある写真家のことばが印象的だった。
<「希望」という言葉は、疑いという言葉とともにのみ存在できるのだ。>