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なので、テーブルの上に立ったファーブル先生がランプの周りを飛び回る蛾を観察しているとか、そういうシーンは出てきません。ただし、虫たちの研究の合間の気晴らしに、ファーブル先生がヴェルヌの『八十日間世界一周』をテーブルの上で読み耽っていた、ということはあるかもしれないけれど。
もといっ。本書の内容なんですが、空に昼月、机上に昼酒を置いたふたりの人物がテーブルを挟んでの雑談あり、「もぐり酒場」なる場所でささやかれた独り言あり、鉛筆たちの対話あり、とりとめのない夢想と言ってしまうと悪く聞こえますが、まあ、不思議と夢がブレンドされたみたいな話が並んでいるっていったらいいのかなあ。本の内容の説明が下手でごめんなさいなんですが、うまいこと説明しようとしたそばから蜃気楼のように文章が朦朧としてしまう、夢かうつつかグレイゾーンの世界に溶け込んでしまう、そんな味わいの本です。
なかでも本書の白眉として読みごたえがあったのが、「吉田健一の「酒は代用にならないという話」を読みながら考えたこと」。本書を開いたその中に、吉田健一のエッセイが本を開いた形で読めるようになっているんですね。そして吉田健一の開かれた本の周りに、本書の筆者の独白というか感想が書き留められています。この「本の中の本」という趣向がいかしてるなと思ったことと、吉田健一の文章の味わいが素敵だなと思ったことと、その文章にエールを送る筆者のつぶやきがいいなと思ったことと、この三つの点でとても心地よい読みごたえを堪能しました。
たまたま最近、吉田健一の『怪奇な話』という文庫本をネットで購入していたこともあり、いいタイミングで吉田健一の文章に接することが出来たなあ、読みたい気持ちに誘ってくれたなあと、私の芋蔓式読書にかなう一節でした。乾杯!
翻訳家、岸本佐知子さんが飛び入りのように本の中に登場したのには、意表を衝かれました。数日前に読んだのが、ミルハウザーの『エドウィン・マルハウス』だったから。翻訳されていたのが、岸本佐知子さんだったんで、こういうタイミングの良さはなんかいいなあと。
クラフト・エヴィング商會の本は、これと『クラウド・コレクター(手帖版)』の二冊きり読んでいないので、あれこれもっと読んでみたくなりました。
本というものの不思議な存在、在りようについて思いをめぐらすことのできた一冊です。
が・・・。
逆にこれまでになく"内にこもった"というか、もっと直截的に言うなら"死の匂い"がそこはかとなく漂う仕上がりになっています。
棺桶を思わせる「電球のベッド」や「そちらはどうですか?」と問いかける後書き等々。
ある意味「内にこもる自らを日の光の下にもう一度引っ張り出そうという努力の過程」がそのまま本になっているのかもしれません。
ちょっとだけ心配しつつ、でもクラフトエヴィング商會がずっと持ち続けている"健全さ"を信頼して、これからの展開を楽しみに待ちたいと思います。
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