ナスターシャ・キンスキーが一躍国際舞台に踊り出た一本。特典映像までついてこのお値段。ファンの皆様、お買い上げ下さい。
映画自体は、暗い。テスは全編を通じて結構ダンマリさんである。最近の映画がいかにお喋り女で溢れかえっているか、ということにも思い当たる。
テスは賢い少女で、教師になりたかった。しかし貧しく、親は俗物だった。不幸にも彼女は美貌である。さらに不幸なことに、彼女は高潔だ。しかも自分が高潔だとは知らない。
彼女の美貌は金持ちの放蕩息子・アレックスを引き寄せる。アレックスは彼女を無理やり愛人にする。アレックスは魅力的な男で、彼女を愛してもいる。テスが普通の女だったら、話はそこで終わる。レディコミである。
テスには「生き易さ」より上の価値があるのだが、それを語る言葉を持たない。聞く者もいなかったろうが。だから彼女はいつも悲し気に黙っている。
彼女はやがて純粋な男(と思える)エンジェルに出会い一途な恋をする。しかしその時点ではまだ世間知らずの若造に過ぎないエンジェルは、テスのアレックスとの過去を許さない。
「性格は運命」という話でもある。テスの場合、その時代故に、彼女の「運命たる性格」は悲劇に転じる。そしてそれ故に、彼女は全ての時代に必ずいたに違いない、歴史に埋もれた女たちの象徴になったのである。
長い長い時間を経てフェミニズムが誕生する訳だが、テスが現代に生まれていたら、あるいは何かを語っていたかもしれない。いなかったかもしれないのだが。「語りえぬことに沈黙する」彼女は、あるいは現代にいてさえ寡黙だったかもしれない。逆に、現代の姦しいフェミニストは、テスの時代でさえも、周囲の男たちを尻に敷いてそれなりにやっていけただろう。
ナスターシャ・キンスキーは大根女優かもれないが、この「沈黙する高潔な美女」に合っている。