本書はあらすじから想像されがちな愛と癒しの感動ストーリーではない。グランタ誌の「若手イギリス人作家ベスト20」(2003年)に選ばれた著者が描いたのは、グロテスクな暴力と読み手をにんまりさせる笑いに満ちた、おかしくて怖くてせつない不思議な物語だ。
特にすばらしいのは、小さな物語やエピソードが交錯する後半部分。家路をひた走るティモレオンが目にするさまざまな人々の人生模様には、そのひとつひとつが独立した短編作品と呼べるほどのきらめきがある。また、そうした小さな物語同士に直接のつながりはなく、それでいてどの話も深いところで結びついているように感じられるのもおもしろい。ばらばらに投げ出された生と死のエピソードを束ねているのは、人間という不条理な存在をありのままに見つめるティモレオンの視線。その優しくも冷たくもある眼差しこそ、本書の独特の味わいを生み出す素になっている。(小尾慶一)
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はじめは、愛らしい雑種犬「ティモレオン・ヴィエッタ」の飼い主、コウクロフトというおやじに、
腹を立てまくり、後ろから蹴飛ばしてやろうかねという勢いで、ページを捲り続けた。なんって話しだ!と。大笑いして。
ティモレオンはこの飼い主に捨てられるのだが、それに至る場面では、あまりにありがちな、人の心の変化に、憎しみさえ感じる。
その後続く、家路を辿るティモレオンとすれ違う人々の物語りは、悲しく切ない。不条理にみちている。
「よくある話しさ。人生なんて、皮肉なもんだもん。」とシニカルに本を置けなくなっていたのは、
人々の悲しさを通して、ティモレオンの運命を予感し、愛しくなっていったせいかもしれない。
人間のささやかな身勝手から引き起こされた、悲劇の数々。
この物語りの残酷さこそ、いつかの自分の事の顛末。その結果なのだと、突きつけられているように感じる。
久々に、後あじの悪い、それでいて抗しがたい魅力のある作品と出会った。
作者は「もう書かない」と言っているようだが、次回作を切に熱望する。
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