「劇的瞬間」とは何か。本書では、たとえばニューヨークの犯罪発生件数が5年間で64.3%もダウンしたケースなどを例にとって説明する。ここでは、荒廃していた地下鉄をクリーンアップし、無賃乗車を厳しく取り締まったことにティッピング・ポイントがあったとみる。荒廃した地下鉄がニューヨーク全体の犯罪を誘発していたという視点である。あるいは、販売不振だったシューズの爆発的な流行、テレビ番組「セサミ・ストリート」の成功などの現象を読み解いている。ごく小さな原因が感染的に広がり、劇的な変化を生むというのである。
では、「感染」はなぜ起こるのか。本書は3つの要素を挙げる。「感染」を広げる少数者の存在、「ウィルス」の特徴、それが作用する環境である。とくに、口コミによる伝播の役割を担う人々の具体像を明らかにした点が興味深い。いわゆる口コミによるブレイクの謎解きを行ったものとして、実に刺激的な論考である。
ただ、商品を売る側にとっては、そこから先、つまりどうすればティッピング・ポイントを作りだせるかが最大の関心事だろう。本書はそこまでは言っていない。本書が指摘しているのは、「小さな変化」が「大きな変化」につながるという発想(つまり、ティッピング・ポイントがすべてを決定するという考え方)が私たちに欠如しているということ。著者のねらいは、私たちの硬直した発想を転換することにあるようだ。(棚上 勉)
まずは、鳴かず飛ばずのシューズブランドが不可解なきっかけから全米の若者の間で大ブームとなり爆発的な売れ行きを記録した実例を紹介。ティッピング・ポイントの存在と「確かにある原則」について解説する。著者はそうした現象を感染症に例えつつ、流行には特殊な資質や特性を持ったキーマンが必ず関与する「少数者の法則」などを明らかにしていく。
我が国でも「プレイステーション2」や宇多田ヒカルのCDなど、いわゆる「一家に1つ、独り勝ち現象」が注目されている。しかし、個々の現象の共通項を探求し、理論にまで仕立てた書籍は少ない。興味深い1冊だ。
(日経ビジネス2000/3/20号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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