ランス・アームストロングをツール・ド・フランス史上初の7連覇に導いた男ヨハン・ブリューネル。5ヶ国語を操る知将というイメージが自分の中では強かったが、本書を読む限りではランスと同じかなりの熱血漢のようだ。プロサイクリング・チームの監督というのはかなり裏方さん的な要素が強いため、ランスが所属したUSポスタルやディスカバリーのチーム裏話がもっとたくさん書いてあるのかなぁなどと勝手に想像して読んでみたのだが、ブリューネル自身の選手時代及びランス黄金期のレース描写がほとんど。おそらく、ヨハン・ブリューネルに対する(わずかな)インタビューを元に、レースビデオを見ながらビルなにがしというライターが書き上げたスポーツドキュメンタリーなのだろう。
ここ数年ツール・ド・フランスをJスポーツで見ている人にとっては、既に見知っているランスに関するエピソード(一部ブリューネル選手時代のエピソードもあり)ばかり。ブラフ(技と苦しいフリをして相手に余計な力を使わせる戦法)でライバルを出し抜いた話、ハンガーノック(腹が減って脚が動かなくなる状態)になってマジでピンチだった話、モンバントゥでパンターニに勝利を譲ったら裏めった話など・・・。どれもこれもランスに関する本には必ずといっていいほど書かれいる有名話で、目新しさには欠けるといわざるをえない。
しかも、本書に出てくるブリューネルはひたすら「叩き潰せ」「行け行け」の一点張りで、チーム内のアメリカ人がツールやその他のクラシック(長い距離を1日で走りきるヨーロッパ伝統レース)で活躍することが何よりもうれしいような書かれ方をしている。本人は生粋のベルギー人であるにもかかわらずだ。もしブリューネルの実像がこの本に書かれている通りだとしたら、負けん気の強いランスとは到底性格が合わなかったような気がするのだ。
要するに、ランス・アームストロングのほぼ肉声で書かれた「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」などとは違って、本書はアメリカ人ライターがブリューネルのふりをして書いたゴースト本である可能性が非常に高い。スター軍団を揃えたUSポスタル(ディスカバリーチャンネル)チームをまとめるのにブリューネルが相当の気遣いをしたと想像できるのだが、そんな苦労話には一切ふれられていない。外側のいいところばかりを書き集めた(誰でも書ける)ような内容に到底感動などできるはずもなく、こんな本を読む時間があったら昔撮ったレース映像をDVDで見ていた方がよっぽどマシだと思った次第であります。