1990年9月2日、宇都宮、それは私にとって生涯最高の一日だった。残念ながらツールを現地で見たことはないけど、ツールではなくても、自転車レース観戦での幸福な体験を持つ人なら、そのときの雰囲気を思い出しながら、かなり楽しく読めるはず。
ほかのレビュアー諸氏の評価が低いのは、きっとなにか違うものを求めているんだろうけど、あとがきにあるように、自転車をきっかけに広がった著者の世界という意味ではおもしろい読み物になっているとおもう。
さりげない描写、たとえば「防波堤そばのカフェが用意した50脚ほどの籐の椅子が屋内に取り込まれることもなく、雨に濡れそぼっていた」(65ページ)とか、「屋根に積んだ自転車が、コンクリートの路面にくっきりと影を落としていた」(160ページ)とか、あちこちに映画のワンシーンのような描写が点在していて、そういうのを自転車レースと関係ないじゃんと切り捨ててしまう人には向いていないかも。