主人公は20代の物静かな事務員の杏。ブログで使う「ツギハギ姫」の筆名で書くときの考えこそが本当の感情表現である。現実には「その場しのぎの、周りに合わせた『仮の自分』ばかりでツギハギだらけ」として振る舞い、「生身の人間が苦手」で、他人を心から愛することや他人に己の心に踏み込まれることを極端に拒み、ネットやアニメの仮想空間にのみに自分の存在意義を見出す。
そんな杏はサーファーのリクと出会い、やがて同棲生活が始まり、徐々に彼女が心を閉ざしていた理由が明かされ、ストーリが展開していく。リクは司法試験を目指して共に猛勉強した友人の自殺に絶望し、虚無感にさいなまれサーフィンに没頭する。彼も「生身の自分」をさらし、杏と向きあったわけではない。彼自身もツギハギ王子なのだ。
しかし、恋をする前に杏がいみじくも予測したとおり、波乗り王子として尊敬し、心底から愛するがゆえに、リクの存在が重荷になっていく。自分をさらけ出せば捨てられやしないかと悩む。彼が外泊するたびに杏は深刻な過呼吸に陥る。その遠因は幼少のころ、両親が離婚し、愛する母からも浅草の盛り場で捨てられ、そのときに受けた傷が癒えていない。
杏が去ったあと、再会を果たしたリクが「思いやりが足りなかった」と反省し、よりを戻そうと懇願する。しかし、杏もまた、リクを浅草へ連れ出し、置き去りにする。彼女は過去の傷が癒えぬ限り、新たな恋の成就は難しかろう。だれしも「生身の自分」をすべて出せないのが人間の性(さが)だろう。杏とて例外ではない。そもそも2人には確たる共通点がないので、別れは必然であろう。しかし、杏は自分の殻から抜け出さない限り、この先どうやって生きていくのだろう
若い世代の作家の作品傾向を知るには参考になるので一読をおすすめする。