現代思想の「震災以後を生きるための50冊」で3人もの評者から推薦されたのはこの極めて短い(文庫本で僅か25ページ!本自体は他の作品も掲載されているが)小説であった。なので1時間、いや30分もかからずにさらっと読める物語の中に、ユートピア(主人公男女の処刑の直前に大地震が起こり、処刑を免れしかも再会がかなう)とディストピア(食べ物と祈りのために教会を訪れると、群衆が彼らを震災を起こした悪魔だとののしられ、主人公の子どもが殺される)が主人公の男女を次々と襲う。震災についての教訓(天災であろうと人災であろうと個人にとっては大きな運命に過ぎない、など)があまりに多すぎて、人類が理性を手に入れた(カント哲学)が大自然の力の前に見直しを迫られる当時の思想にも大きな影響を与えたと言う。短い作品なので先ずは軽い気持ちで読んでもらいたい。
他の収録作品もみな衝撃的だ。大金持ちがいきなり明日の食い物にも困るほど落ちぶれたり、正義の行為をしたつもりが死刑判決を食らったり、残酷な運命の物語の小説作品がこれでもかとばかりに並ぶ。そしてそういう物語を評価する(カント哲学をブッ壊したことはすでに書いたが、フランツ・カフカも多いに影響を受けたと言う)ドイツ人もすごい。まあ日本にも太宰治とか芥川龍之介とか救いのない文学は多いが、最近のコミックやアニメでその手の作家はマニアックな評価しか受けてないしな。
今の日本人は周囲からの承認がされないことから1億総うつ状態になっているが、文学と言うフィクションの中でこれらの強烈な自己否定を経験しておくことは震災がなくとも大事なことじゃないかな。