清冽で鮮烈な印象を残す小説だ。
野卑にならない程度の切って捨てるような文体が、テンポよく引っぱってくれる。
久しぶりにのめるように読んだ新人作家である。
チューバの魅力にとりつかれた主人公(26歳・女性)が、これでもかと
言わんばかりに、チューバの音を語り、なぜ吹くのかを省み、内から
突き上げられるようにのめりこむ自己をどうにかことばにしようとする。
捉えがたい内からの欲求に揉みしだかれ、チューバと自己のスタンスを語る。
中学1年で偶然にも出逢ったチューバを手ほどきしてくれた訥弁の先輩。
高校時代の吹奏楽部では、思う音楽に向かえないと、あっさり見切りをつけた
いきさつ。
チューバが咆吼するかのような、バルカン半島のジプシー音楽「ベッサラビアの婚礼」
との衝撃的な邂逅。
それから、黒帽子のクラリネット吹きとの出逢い。
インディペンデントのクラリネット吹きがインディペンデントのチューバ吹きを見いだし
自分の我楽多樂團に引き入れるさまは、ある意味アイデンティティーの
ぶつかりあいでもあり、彼らの技量が素晴らしいゆえにその何でもありめいた
音楽が妙に魅力的なのだ。
かつて、オーボエ吹きとフルート吹きが我が家にいた。
来る日も来る日もロングトーン。取り憑かれたような日々があったことを思い返す。
「ならば、私が、吹いてやる。」
チューバのベルから世界へと放たれる音楽は紛れもなく、私の中から湧き出てくる
私の音楽だと言い切る小気味よさ。
紙面から音が立ちのぼってくるかのごとき勢いに圧倒されるラストだ。
他に「飛天の瞳」「百万の星の孤独」の二篇の短篇。
この人はどこか捕まえどころのない遠い思いを描くのがうまい。