この時代の英国王室を扱った映画や文学は、エリザベス女王、メアリー・スチュアート、アン・ブーリンというように、女性が主役の愛憎物が一般的(「男もの」はかなり古い『わが命つきるとも』くらい?)。このドラマも派手めで扇情的なポスターや予告から、その手のものを想像していました。
ところがびっくり、家庭内どろどろより俯瞰的で、ヨーロッパ全体の政治情勢を視野に入れた、とても面白い作品です。『ブーリン家の姉妹』があくまで私的な物語で、政治が何も描かれていなかったのと対照的。「でぶで好色の暴君」ではなく、若い頃は英邁を謳われた君主として、また情熱と弱さを併せ持つ一個人としてのヘンリーが主人公になっています。王だけでなく、ウルジー、クロムウェル、トマス・モアなど、主要登場人物はみな少しづつ価値観が違いながらも、それぞれ自分なりの最善を尽くす姿が、理想化されることなく描かれています。そのずれが悲劇を生んでいくのですが…。
第1部では特に、これまで「最後にしくじった金満坊さん」のイメージしかなかったウルジー(懐かしのサム・ニール)の、政治家としての老獪さ、懐の深さ、やんちゃで衝動的な君主に仕える辛さ、その君主への父親めいた愛情、俗っぽさが混じり合った複雑な人物像に感心しました。
第2部も、早く地位を安定させたくて焦るアンと、彼女への愛情を持ちつつも、流れで犠牲にしてしまった忠臣たちへの悔いやヨーロッパ内での政治的孤立に苛立つヘンリーの両方の言動に説得力があって、二人が次第にすれ違っていく様子が、「暴君なので飽きてしまいました」的ではなく、リアルに描かれていました。
物語がこれだけしっかりしている上でのヴィジュアルなので、16世紀というより21世紀ロンドンコレクション的なスタイリッシュな衣装も素晴らしく見えます。
小説では、ちょうどクロムウェルを主人公にした『ウルフ・ホール』の邦訳も出たところなので、合わせて楽しみたいです。