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5つ星のうち 5.0
驚異の達成,
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レビュー対象商品: チャンドス卿の手紙 他十篇 (岩波文庫) (文庫)
シュテファン・ツヴァイクが『昨日の世界』(みすず書房)で書いているように――《ホフマンスタールこそは、ふたたび繰り返しえない、早熟な完成というものの一回限りの奇蹟である》。20代から30代に書かれた11篇の作品を収めた本書は、ツヴァイクの<証言>を十二分に証明している。 小説が4篇、架空の手紙と対話がそれぞれ2篇、紀行文が3編からなる本書収録作品に共通するのは、<現実>と<もうひとつの世界>とを自由に行き来する繊細の精神、精緻な文体だ。 それはまさに、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの<先駆>である。 つねに使用人たちに見つめられている、と意識する《ひじょうに美しい商家の息子》の迷路のなかを行くような生と死。(「第六七二夜のメルヘン」) さる元帥と美しい人妻とのたった一夜の逢瀬(そして人妻の死)を描いた「バッソンピエール元帥の体験」は、ゲーテの小話を4倍にふくらませたものだというが、高度な緊密感を保っている。 そして、あの有名な「チャンドス卿の手紙」。 《だれもがいつもためらうことなくすらすらと口にする言葉を使うことが、しだいにできなくなりました》《言葉がわたしを見はなすのです》と記すチャンドス卿は、<言語>の危機を伝える。 その一方、《一箇の如露、畑に置きっぱなしの馬鍬、日なたに寝そべる犬、みすぼらしい墓地、不具者、小さな農家》に《きわめて崇高にして完璧な現在》を見出す感覚は、<言語を超えた言語>への道をほのかに照らし出す……。 研ぎすまされた感性が横溢する本書であるから、サルトルの『嘔吐』を予告するようなくだりに出会っても不思議とはしない。 「帰国者の手紙」の書き手は、何気ないものを見ても、《ほんの一時だが軽い吐き気がおそってきた。底知れぬ奈落のうえ、永劫の空無のうえをつかのま漂うようだった》というのである。 ほとんどが20〜30ページの短篇だが、11篇いずれもがハイレベルな達成を見せているのは、文字どおり<驚異>と評するしかない。 訳文もこなれている。
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