この映画『チャンス』(原題『Being There』)は、ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』を下敷きにした
ジャージ・コジンスキー原作・脚色のコメディーである。
英語タイトルの「Being There」は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの未完の主著『存在と時間』から採られている。
愚者が山から下りに則り超人となってしまう『ツァラトゥストラ』。
ここでの愚者は、ワシントンの黒人街に奇跡的に残った、資産家の邸で、子どものころからから庭師として育てられた
(おそらく)天涯孤独の中年男チャンスである。知的障害を持つ、現在の診断基準に沿えば、アスペルガー症候群である。
テレビを見るのが異常に好きであるが、これはこだわり行動である。
庭師のチャンスはある日、子供の頃から住み込みで働いていた家を当主の死により出ることとなった。
町を出てさ迷い歩いているところへ高級車に接触し、乗っていたイブから自分の家に来て治療をすることを勧めらる。
イブの夫ベンジャミンは、アメリカ経済にも、大統領の政治にも多大な影響を持つ経済界の大立者であった。しかも瀕死の状態にある……
庭師のチャンス役 ピーター・セラーズ イブ・ランド役 シャーリー・マクレーン ベンジャミン・ターンブル・ランド役 メルヴィン・ダグラス
全員素晴らしい好演。
チャンスが家を出てワシントンに向かうシーンでは、
リヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはこう語った』(1896年)をアレンジした曲が流れる。
ラストシーンでチャンスは湖水の上を歩いて行くが、これは水上を歩く奇跡を行ったというイエス・キリストのパロディ。
ニーチェは「神は死んだ」と言ったが、この映画ではどうなのか。それに対する反論とも受け取れるし、
「神などそこにいる」ともうけとれる。