昔々、NHKのラジオで、毎年年末に、冗談音楽の特集をやっていた。当然、スパイク・ジョーンズなどポピュラー中心だったが、クラシック畑からは、ホフナングとともに、ベートーヴェンの「ウェリントンの勝利」が常連だった。
この作品は、スペインで、ウェリントンがナポレオン軍を破ったことに喜んだベートーヴェンが作曲し、当時、大喝采を浴びた人気作だった。ベートーヴェンは当初、ナポレオンに傾倒していた人物で、彼に捧げるため、交響曲第3番を作曲し、タイトルも「ナポレオン」とするつもりだった。しかし、ナポレオンが皇帝になったことに激怒し、タイトルを「英雄」と書き換えたのは有名な話だ。
あらためて、「ウェリントンの勝利」を聞いてみると、両軍が派手に大砲をぶっぱなし、マスケット銃もパンパンと景気よく、まるでハリウッド映画の伴奏みたい。こんな怪作を作曲したのを知ると、むずかしい顔のベートーヴェンにも、がぜん親しみがわくというものだろう。
較べて、チャイコフスキーの「1812年」は、やはりナポレオンのロシア遠征に題をとり、ついにロシア軍がナポレオンを破った史実を祝った曲だ。じつに愛国的な作品で、両軍が大砲をぶっぱなし、最後にはロシア国歌が高らかに流れる。しかし、ベートーヴェンの「ウェリントンの勝利」ほど、大砲の音がにぎやかでなく、メロディアスで音楽性にまさるといえそうだ。まあ、反面、非音楽的迫力ではベートーヴェンの勝ちといったところか。
最近、映画「のだめカンタービレ」を見たが、山場はチャイコフスキーの「1812年」だった。演奏会場の外で、派手に実物の大砲をぶっぱなし、おおいに盛り上がっていた。その点、このCDの「1812年」の録音は、大砲をドラムで代用しているそうで、少々、残念である。二曲とも、演奏はもちろん素晴らしい。