チャイコフスキーの後期3大交響曲は、いずれも、曲の作り自体に、聴衆が高揚、陶酔し、のめり込みやすいドラマティックなメリハリがあるため、プロの指揮者であれば、皆、聴衆に一定の感動を与える演奏を聴かせられるような名曲揃いである。したがって、私は、第4番は4枚、第5番は12枚、第6番は8枚のCDを持っているのだが、聴いていて特に不満を感じたCDはないということを、最初に断っておきたい。
そんな中で、あえて推薦するとしたら、昔から、これらの決定的名盤としての評価が定着している演奏が、割安なセット盤となっている、このCDということになるだろう。
ムラヴィンスキーは、チャイコフスキーにはうってつけの、ほの暗く、厚みのある響きを持ったレニングラード・フィルの音をベースに、甘美で哀愁漂う旋律をたっぷりと歌わせたり、底抜けに暗い旋律をずしりと響かせる一方で、スケールが大きく、畳み掛けるような圧倒的な迫力を持ったトゥッティにも不足するところはなく、そのコントラストと、全曲を通してのテンポ感は絶妙であり、このムラヴィンスキーの紡ぎ出すチャイコフスキーの交響曲の世界になら、安心して身を委ね、どっぷりと浸かることができるだろう。
私は、今回のレビューを書くにあたって、手持ちの盤の中から、名盤として定評のある、カラヤン指揮ウィーン・フィルの第4番、ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルの第5番、ゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管とバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの第6番と聴き比べてみたのだが、晩年の個人的思いを色濃く反映したバーンスタインの演奏を典型的な例として、これらの演奏には、チャイコフスキー以上に、指揮者のカラーが出過ぎた感があり、やはり、ムラヴィンスキーの演奏が、チャイコフスキーのスタンダードとして一頭地を抜けていると思う。ステレオ初期の1960年録音盤とは思えないほど、音もよく録れている。