いい意味で期待を裏切る本である。サブタイトルの「五体投地、四百万回満行の軌跡」に引かれて購入。しかし本文にはこの四百万回満行のことはまったく出てこない。五体投地のことは極わずかに出てくる程度である。その意味でサブタイトルには大いに裏切られた。
その代わり、この本は筆者がチベット僧になる顛末と心の動きが細かに描かれている。
第1章 アジア漂泊
第2章 秘境・ラダックへの道
第3章 修行の旅
第4章 日本尊者巡礼
特に第2章が圧巻だった。物を失うと逆に精神が軽やかになってゆく筆者。高地で寒く酸素の薄い場所でかつ食料も麦粉ヌカ団子と茶だけ。このような僧院での生活を続けて、静謐な環境で過ごす。読者は著者とともにこのような環境を疑似体験して行く。そのうち読んでいる自分が晴れやかなそして軽やかな気持ちになってくる。自分まで清められたような気になってくる。
第2章と3章に出てくるラダックに有る寺は「全東洋街道」(藤原新也著)の第7章に出てくるリゾン寺らしい。この寺で僧が食べているパパ(麦粉ヌカ団子)がどのようなものかは、全東洋街道では「遠くから見るとそれは焼きたてのフランスパンのように見え、近くに来るとそれは黄粉をまぶした大きな餅のように見えた。目の前に置かれるとどうみても土のかたまりとしか見えないものに成り果てていた。(中略)やはりこれは食い物ではなく食事を取る前の手を清める、たとえばオシボリのようなものに違いあるまいと、思った。・・・・」このような食事が毎日出てくる生活が著者のラダックでの僧としての生活だったのである。全ての欲望から切り離された生活がどういうものかが「全東洋街道」を読むと一層興味が増すと思う。
タイの仏教の事も少し出てくる。著者はタイを経由して日本へ帰る。チベット僧の著者はタイでささげられた蓮の蕾を手に持って成田空港のロビーを見回す。印象的なシーンである。
もっとチベット仏教を知りたい。