ジャズ界広しと言えどもチェット・ベイカーのボーカルを凌ぐボーカルがあるとも思えないし、これから出てくるとも思えない。
1950年代から彼はいつの間にか歌い始め本作はその評価を確立したアルバムだ。だが、ぼくが是非とも体験していただきたいのは、この若き日のチェットのボーカルを聴いた後で、最晩年のチェットのボーカルを聴くことだ。特にスティープル・チェイスから出ているペデルセン+ダグ・レイニー盤数種。そしてフランスあたりで録音した盤は最高である。人間は徐々に枯れていく。彼の中性的と言われるこのボーカルも枯れていくのだが、この『Sings』のボーカルが熟成し枯れた時どうなるか、である。そしてトランペットも枯れていく。
何て素敵なアルバムだろう。ぼくは晩年と若き日々のチェットのボーカルを何度も何度も行き来してしまう一人だ。