1980年にノーベル文学賞を受賞したリトアニア生まれのポーランドの亡命詩人(スターリン時代にワルシャワを出、フランスを経てアメリカで活動した)ミウォシュの詩集です。複数の訳者の方が共訳しておられます。
1911年に生まれて2004年に亡くなられ、大体同じ時代に活躍したルーマニアの詩人パウル・ツェラーン(1920〜1970)や、ドイツのユダヤ系詩人ネリー・ザックス(1891〜1970)、オーストリアの詩人インゲボルグ・バッハマン(1926〜1973)などよりも長生きされて、第一次・第二次世界大戦、共産主義の勃興、冷戦、ポスト冷戦という、知識人が良心を守りながら創作して生き抜くことの非常に難しい時代を切り抜けてこられた詩人です。
この時代の詩人の作品には、体制からの抑圧や弾圧を掻い潜るために、物事や心情を述べる際直接的な表現ではなく、一読して明確な意味が取れないような複雑な比喩や暗示表現を使用することが共通していますが、ミウォシュの詩にもそうした時代の影を感じました。しかし、一方で詩に使われている言葉は非常に平易で(訳の問題がどこまで絡んでいるのか判断できませんが)、上記に挙げた詩人たちよりイメージも普遍的で捉えやすく思えました。
また、国家の目的のために<個>を呑み込もうとする全体主義の時代への抵抗なのか、抽象的でスケールの大きいモチーフよりも、身近で具体的で個人的な事柄をモチーフにした作品が多いという印象でした。
イギリスの文筆家ハズリットが、「作家を判断するとき、一部分でなく全体から判断して欲しい」と言っていましたが、この詩集は激動の20世紀を複数の国を股にかけて、抵抗活動に参加したり亡命したり外交官として働いたり大学で教えたりと様々な経験をして生きてきた詩人ミウォシュの一部分でしかないわけで、本書を読んだだけでは正直分かったような顔は全然出来ません。
更にこの詩人を深く理解するよすがとなる書物の出版を期待します。