O・ヘンリーの味わいを感じさせる「目に見えないコレクション」、滅び行く書物の世界そして一人の書痴の生の終わりへの愛惜に満ちた「書痴メンデル」、主人公の内面描写が何とも真に迫る「不安」、そして故児玉清氏が愛した意外性と強烈なドラマ性に富んだ表題作。いずれも紛ふこと無き佳篇ぞろいの一冊。
「不安の方が懲罰よりも、たちの悪いものだよ。だって懲罰はつまり確定したものだから、その軽重を問わずつねに、恐ろしい不確定−あの緊張の無限に続く恐怖状態−よりはましなんだ」(120頁)。
「あらゆる種類のモノマニア的な、ただ一つの観念に凝り固まってしまった人間は、これまでずっと私の興味をそそって来た。人間は限定されればされるほど一方では無限のものに近づくからである」(156頁)。
「思考というものはいかに実体のないもののように見えても、やはり一つの支点を必要とします。それがなければ思考は堂々廻りをはじめ、空しく一所を旋廻するばかりです。つまり思考というものも無には堪え得ないのです」(188頁)。
「一般によき市民といわれる人々は歴史好きであり、それが内的ドラマに仕立ててあると、なおのこと感動が深まる」(236頁、池内紀氏の解説より)。
なお、故児玉清氏へのオマージュともいえる池内紀氏の巻末解説「ツヴァイクの甦り−今は亡き児玉清氏に」も、読み応えあり。