東京大学の名誉教授でダンテ・ボッカッチョなどイタリア文学の先生が書いたもの。神曲の原題はDivina Commediaというとは知らなかった。同時に、平川先生による新訳の神曲もある。主人公のダンテがローマ詩人のヴェルギリウスの案内によって、地獄・煉獄・天国をめぐるという筋立くらいは知っていたけれど、文学部でもなければ難解だろうと思って手が出なかった。ところが、平川先生の訳はわかりやすく、しかも、源信僧都の往生要集の地獄との対比、イタリア語、英語を彼の和訳と対比、さらには夏目漱石の和訳の間違いの指摘まで出てくる結構なエンターテインメント。司馬遼太郎、塩野七生のように、自分の主観を入れた脱線が入る。東大学園紛争の思出、自分の思想の断片も。思想的にはとても実際的な人で、カルチャーセンターの生徒の方が西宮の私立大学の学生よりはるかに教養・学識があった、などという話から、とてもはっきり物をいう、実際的な先生なのだ、と知れる。東大で陰口叩かれたと書いてあるが、実力があることの裏返しだ。西洋文明の基礎のギリシャ・ローマからキリスト教の文明まで、日本人は案外、こういう古典に直接触れないのは、平川先生の十分の一でもを読んでいる先生がいないからだろう。自分の受けた教育を振返っても高校・大学で世界史など教養で西洋文明の基礎を教えてくれた人はいない。判っている人がいないんだろう。「ミッション系の女子学生が眼を背けたくなるような一神教の自分勝手さ」についての平川先生の観察・解説は鋭い。「ローマ人の物語」を読んで、長かったけれど面白かったと思える人に推薦します。