この映画、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』があまりにも評判でその陰に隠れていますが、私は当時からこの映画の方が大好きでした。まさにオフ・ビート。映画の最初でジャックもザックも騙されて監獄にはいるのですが、そこで脱獄の後は復讐になるのかというと全然そんなことはなく、人生が流れるままに彼らは流されていきます。大学受験・入学の時期にあって肩肘いからせていた私には衝撃でした。つげ義春の旅紀行ものと同じく、世俗の軋轢からポンと飛び越えた自在さや平静があって、どうしようもなくこだわりに満ちていた私に「こんなのも良いなあ」という世界を見せてくれたのでした。
思うにこの映画が優れたロード・ムービーであるという所が大きいのでしょう(ジム・ジャームッシュの映画は旅や車による移動をモチーフにしているものがほとんどです)。旅・徘徊は労働というものと対極にある行為なのだそうですが、目的に向かってただ突っ走った受験戦争に疲弊した私に必要な映画だったのです。また、今では有名になったR.ベニーニがとっても良いです。滅茶苦茶な英語(ジャームッシュ監督が意図的に仕込んだそうです)で話すのですが、ハートのある「言葉」なので人の心を引きつけるのです。「言葉」は人を傷つけるものでもあり、W.アレン映画のように「言葉」が宙に舞っている(それがおかしい)ケースもありますが、「語るべき内容を必死に伝えようとするなら伝わるんだ」という当たり前のことを知らせてくれたのもこの映画でした。
この様にこの映画は20歳前後の私にはなくてはならない映画でした。でも気楽に見るのが一番でしょう。タイトル通りどんどん下がっていくのも結構良いものです。
〈追伸〉ジャームッシュ監督は『情け無用のジャンゴ』や黒澤明の『羅生門』へのオマージュを捧げた映画を撮ってますが、この『ダウン・バイ・ロー』はきっとルノワール監督の『大いなる幻影』へのオマージュでしょう。