或いは死すら救いと感ずる地獄を見るか。
平山式恋愛譚は「恋のやり取り」よりもまず「命のやり取り」から始まる。
否、この二つが同時に進行する。
否否、そもそも両者は同義なのであろう。
その日の売り上げよりウェイトレスの生死が安定しないような異界じみた定食屋に配属された女、カナコ。
店の主で元殺し屋――相手にする客も皆殺し屋――飼っている犬も実は殺し屋――というまさに筋金入りの男、ボンベロ。
二人の恋愛模様=生殺与奪のシーソーゲームが繰り広げられるエンターテイメント作品、それが『ダイナー』である。
まず登場人物のキャラ造形が素晴らしい。
主人公の大馬鹿な子……まさにその通りの人生を過ごしてきた「可哀想な女」であるが、同時に「可愛らしい女の子」としても描写されている。
その恋愛小説的キャラクター性は、これまでの平山作品ではついぞ見た事のない乙女力に溢れていて、
なにか鼻の奥をくすぐられるようなもどかしさ、微笑ましさを禁じ得なかった。
裏社会の怪物どもに囲まれた異常空間で翻弄されながらも、次第に成長し順応していく様子も王道的で面白い。
そんな彼女を顎で使うオーナー・ボンベロ。素っ気なく、容赦なく、妥協しないプロフェッショナル。
過去の平山作品に於いて、仕事に殉じる「プロな男」は皆ことごとく魅力的だったが、やはりこの天才料理人もその系譜に連なる者だった。
ウェイトレスを消耗品として扱う冷徹な男。そんな彼が時たま見せるからこそ映える優しさ。あと、愛犬家というのが極めて個人的に(笑)ポイント高し。
そしてなにより、脇を固める殺し屋達。
ダマスカス鋼のネイルを振るう女。
知覚不可、手段不明の斬撃を操る三人一組。
玩具のような殺傷兵器を用いる少年。
蛇使い。犬。etc...
次はどんな人外がやってくるのだろうという期待感でページを進めさせられる。
彼らの生い立ちはどれも凄惨の一言で、本作のグロテスク成分の大半を担ってくれている。流石マエストロ、期待を裏切らない。
氏の著書『異常快楽殺人』を読んだことがあるなら、少しニヤリとしてしまうだろう。ああ、こういうのをオリジナルでやってみたかったのか、と納得がいくこと請け合いだ。
随分長々とのたまってしまったが、『ダイナー』は旧来のファンも奇特なご新規さんも一緒くたに満足させることのできる、いわゆるお勧めの一冊である。
臓物を垂れ流したり顔皮をこそげ落とすような本なのに、なぜか腹の虫が鳴って唾液が口内に充満してくるという奇妙な体験をしたい人も是非。
ただ一点、最後にもう一回転物語が動いてくれれば尚良かったという我儘を残しつつ、
今回の評価とさせて、
いただきます(両手を合わせ表紙を見つめながら)。