出来れば、原書Oxford University Press版を読まれることをお勧めする。日本語の副題とは違って、この本における著者の論点は「ツールの進化が人間社会の発展・変革にいかに影響を及ぼすか」の「考察」が主眼点である。「予想」などではない。(そうとられることを著者は嫌っている。)現在、それは太陽(主として電池)、ジェネティクス(日本語の訳語と違い、これは工学だけではない)、そしてインターネットである。ダイソンが広範に日常的にアクセスしてきた専門家達の理論や開発状況を出発点として、社会はどうなっていくか、その場合に開発費提供者達も含め、どう考えるべきかということを、人間と貨物の輸送を同時達成した不経済なスペース・シャトルの例などを引き合いに考察している。ポイントは貧富の差による恩恵の差、更に支配者とサメバントの階級分化である。それを緩和するのは短期・長期開発期間の明確な分離、火星に行かなくても南極にあった石が火星の物であったと最近知った実例など例にして、技術の低コスト化が必須であること論じている。圧巻は最後の方のクローン羊ドリーの話であろう。受胎から胎児になる間に各遺伝子が役割分化された遺伝子情報を担う過程(stem cell developmental process)が理論的に全く分かっていなくてもドリーができてしまったということが、この事件が専門家の間でも専門的な議論にならない(専門家は理論的な話ができない)原因だが、一部の大金持しか需要がないような人間のクローン化よりも、優良な遺伝子を注入し、劣勢な遺伝子を除去する技術による、支配者とサーバントとの能力による社会の二分化が起こるかどうかの方がもっと社会にインパクトがある(昔の忌まわしき優生学を連想させる)。一時期はそういうことも生じるかも知れないが、コストの低減ができれば、差別化がなくなるのではないか、いや種化(speciation)で異なった種類の人間たちになって宇宙を住み分けるのかもしれないとまで論じている。ダイソンの能力や知見を一言でいえば、ファインマン級の理論物理、オンネス級の応用物理学、アジモフ級の生化学・オールラウンドな説明能力を全部混ぜた人といえるだろう。最後に、本書はニューヨーク公共図書館でオックスフォード大学の財政的後援で行ったレクチャーをもとにしている。中学高学年生、高校生にむしろ読んでもらいたい本である。