DNAには、タンパク質のアミノ酸配列が塩基配列としてコード化されている。
その塩基配列をRNAが読み取り、アミノ酸の鎖ができ、タンパク質が合成される。
本書を読む前からそのことは知っていたし、そのことだけでも、十分に生命の不思議を
感じていた。しかし、本書で丁寧に説明されているのは、その後のプロセスにおける、
生命の仕組みの驚嘆すべき精緻さである。
一次元のアミノ酸の鎖から、どのようにして複雑な構造と機能を持つタンパク質が
形成されてゆくのか? 形成されたタンパク質は、細胞内をどのようにして
運ばれてゆくのか? 大きなタンパク質が形成されてしまった後では、膜を通過できない
場合があるではないか。その場合はどうなっているのか? 中にはタンパク質がうまく
形成されない場合もあるだろう。その場合はどのような機構が働くのか?
本書には、細胞内におけるタンパク質の誕生、成長、輸送、死、そして品質管理の
仕組みが、専門外の読者にもわかりやすく、読みやすい文体で記述されている。
ページをめくるたびに、細胞内に存在する精巧な機構に、驚きの声をあげそうになった。
分子生物学が明らかにしたところによると、我々の身体を形づくっている細胞の中で、
音も立てずに素晴らしいスピードでまことに合理的な機構が働いているのだ。
この仕組みが、進化の過程で発達してきたことを考えると、生命の不思議さに
改めて感動する。
著者もあとがきで述べているが、いわゆる「科学もの」は一般の読者に伝えるのが
難しい。正確に伝えようとすると専門的になりすぎ、一般を意識しすぎると中途半端
なものになってしまいやすい。本書は、そのような困難な課題をみごとに乗り越えて、
正確でかつ一般の読者にも分かりやすい、稀有な書物である。