泥酔者、失禁ばあさん、気前の良いダンナ、スピード狂のおばあさん、不思議な会話のキャリアウーマンと様々な客を乗せてのエピソードは読ませますし、筆者の過酷な体験の一端が伺えました。
乗務経験のない人は10日間の研修を受けることになっているそうで、2週間にわたる研修の中身もまた珍しいものでした。
本書に掲載してある資料は44種類に及び、公共交通について専攻している大学院生の筆者のならではの思慮が感じられ、本書の出版の意味もここにあるでしょう。特に部外者ではその労働実態は伺い知れず、過酷とは聞いていますがどのくらいの勤務状態なのかは本書を読むまで良く知らないこともあり、勉強になりました。1車2人制と2車3人制の違いなどはタクシー運転手として勤務したからこそ見えてくるものでしょうし、各月の同僚たちの個人別営業成績表もその方の努力が感じられました。資料4の賃金早見表によれば、運送収入が50万円を超すと賃率もよくなるようですが、タクシー過剰の今、それだけの水揚げを得るのは相当大変そうでした。
筆者の浅野 健さんは、本書執筆時広島大学大学院総合科学研究科博士後期課程3年生で、京都でタクシー運転手をされていた時は、立命館大学大学院政策科学研究科博士前期課程に在籍している時でした。
祖父の死により生活費を稼ぐ必要に迫られ、平成17年9月~平成18年3月の6カ月、洛陽交運株式会社タクシー乗務員として、タクシー乗務を成し遂げた記録が本書のベースになっています。
弥栄グループには幸運を呼ぶという4つ葉のクローバーのマークをつけたタクシーが走っており、本書の表紙に使用してありました。
なお、「万寿寺」の項で筆者が京都の道を知らなくて客から指示を受けている箇所ですが、「堀川を越えて、仏光寺で高辻へいくねん」「回生病院の向こうにはJTがみえてくる」というあたりは裏道ではなく、客の言うように五条や四条を避けるのには必要なコース取りだと思います。京都のシーズンの渋滞はひどく、抜け道や交互にでてくる一方通行の道を知らないと街中は走れませんので。タクシー乗務は何かと大変ですね。