原作には長年興味があったのですが、文学読みじゃないのでずっと手が出ずにいました。映画があるのは有難い。「ラクして知る『タイタス・アンドロニカス』」というノリで鑑賞しました。
制作年代的にユーゴ内戦やコソボ紛争がインスピレーションにあるのでしょう。そういう意味では反戦映画ですが、脚本がシェイクスピアですから安くない反戦映画です。シェイクスピアはよく知りませんが、この作品を基準にするとスゴイ作家さんですね(←バカな発言)。根本が道徳劇であるにも関わらず、作者がしゃしゃり出て説教するなんて絶対にしないし。脇役まで全員のキャラが立っています。事件を起こすのはキャラであって作者ではないという、最高級の語り部しか出来ないことをシェイクスピアはやっている。「悪の司祭」たるムーア人の描き方など、驚嘆します。
話は、被害者が加害者になり、加害者が被害者になり、「関係者全滅」まで続く血みどろの復讐劇。ローマ防衛に人生を捧げた挙句にローマ市民の忘恩に挫かれていく老将の姿が痛切なんですが、この老将も結構愚かなんで複雑。
古代と現代のモチーフが錯綜し、夢幻的イメージが展開し、まさに奇想充溢、私は見ていて飽きませんでしたが、「鼻につく」と感じる方がいるのも理解出来ますね。しかしグロい話ですから、寓話的に見せてくれると距離感が出来て良いのでは。これをリアリズムでやられたら堪らない。しかし最後の「救い」のイメージは絶対に監督の追加ですよね。あれは頂けない。メッセージ性が鼻について。
俳優さんたちが全員見事です。シェイクスピア英語が完璧に「自分の言語」になっている台詞運びが堪能出来ます。アンソニー・ホプキンスの滑舌にはウットリしてしまう(大して分かって聞いてなくとも)。ジェシカ・ラングも名女優ですね。ともあれ、原作の方もちゃんと読んでみようかな、という気にさせてくれる映画で私は満足です。