この第6巻は、文庫版の中でも、特におすすめの一巻と言えるでしょう。
空前絶後の強敵ミラクル3との死闘に、胸のすくような形で決着がついたかと思うと、
その爽快感が冷めやらぬうちに、再び物語は暗転。
窮地に陥ったミスターXが、「ちびっこハウス」の健太少年を誘拐。彼を人質にしてタイガーを、凄惨なリンチの待ち受ける虎の穴本部におびきよせるという息もつかせぬ展開で、読者をぐいぐい物語世界に引き込んでいきます。
たったひとりで奮闘するもついに力尽き、なぶり殺しにされようとするタイガー。
しかし、その前に思いもよらぬ助っ人(たち)が現れ、これぞマンガという痛快な活躍によってタイガーと健太を救出。
力を合わせて虎の穴本部を滅ぼすという大団円は、まさに「タイガーマスク」のクライマックスにふさわしいもので、
漫画版「タイガー」の数ある名エピソードの中でも、これをベストに推す人はすごく多いんじゃないでしょうか。
このエピソードを読み返すたびに私は思うのです。
これを最終回にするテもあったのではないかと。
ここで終わっていれば、後味は実に良かった。
「タイガーマスク」は、連載当初からの基本路線を忠実に保った痛快なプロレス・ファンタジーとして、物語の幕を引くことができていたはずなのです。
ところが現実には、物語はここで終わらず、この巻の終わりの方に序盤が収録されている「にせタイガー」のエピソードへとつながっていくわけです。
今でもはっきり覚えているのですが、
リアルタイムで「にせタイガー」を読んだ小学生の時、なんだか物語の空気がガラッと変わったような気がしたものです。
ひとことで言うと、暗くなった。
伊達直人という人物の悲痛な運命を、荒唐無稽なファンタジーの雲で優しく包んできたのが「タイガーマスク」の魅力だったとすれば、
その優しい雲が、「にせタイガー」のエピソードに至って、すっかり取り払われた。
ファンタジックな仮面をはぎとってしまうと、その下から伊達直人という人物の、疲れ切った顔が現れた。
切れば血を吹くほどにリアルな、苦悩に満ちた顔が。
思い切って言います。
「にせタイガー」以降のタイガーの物語は、それまでの痛快なプロレス・ファンタジーとは似て非なるもの。
哀しい運命に翻弄された伊達直人という人物の、人生最後の時間に胸をよぎった様々な思いを克明に記録した、ある種のドキュメントとでも言うべきものです。
それはあまりに生々しく、つらく、読み続けるのが時に困難になるほどの悲痛さに満ちたものです。
ですから、悲しい物語の嫌いな方は、虎の穴本部が滅び去る大団円で、ページを閉じられたらよいと、私は思います。
痛快なプロレス・ファンタジーとしての「タイガーマスク」はこの巻で終わりです。