H.P.L.作品では「クラーカシュ・トン」と呼ばれているクラーク・アシュトン・スミスの短編集です(解説には「クラーカシュ・トン」のサインもあります)。様々な共通の固有名詞や出来事が複数の作品にちりばめられ、それらを追って行きつ戻りつしながら読んでいくと、ゾティークの恐怖の姿が次第に明らかになり、その中核にはH.P.L.的な彼方の存在があることが見えてくるという構成です。
作品の中での説明によると、ゾティークはこの地球の未来の姿だということになっていますが、現在の文明との連続性がほとんどなく、完全にガレー船と馬と魔術の世界です。そのため、コリン・ウィルソンがH.P.L.作品に見いだしたような「地球の文明史」的要素は感じられず、普通のファンタジーワールドという印象の方が強くなります。また、多くの作品が官能的要素を含んでおり(命からがら逃走する夫婦から、イケメン青年を誑かす妖女まで)、これもH.P.L.とはだいぶ違う感じです。
裏を返せば、これならH.P.L.のコズミックホラーに乗り切れなかった読者にも楽しめるのではないかと思います。けだし、東逸子さん描く蠱惑的な表紙画がなんと良く合っていることかと。