ニューハンプシャー州の小さな町の隣家に育ったエミリーとジョージ。
二人は幼なじみとしていつも行動を共にし、やがて結婚した。
しかし九年後、幸せな結婚生活はエミリーの死により突如終わりを迎える。
死者となったエミリーは過去に戻り、何の変哲のない日常が輝いていたことを知る。
『トム・ソーヤーの冒険』のあの名場面を私は思い出す。
家出をしたトムたちが自分たちの葬式の日に戻って来てみると、
いつも厳しかった家族が、友人たちが泣いている。
彼らはその時、自分たちがいかに愛されていたかを知ったのだった。
青い鳥はほかのどこかではなく、自分の家にいる。
しかし、われわれがそれに気づくためには、
いつも遠回りしなければ、何かを失わなければならないのだろうか。
エミリーは言う。
「全然わからなかったわ。あんなふうに時が過ぎていくのに、
あたしたち気がつかなかったのね。……ああ、この地上の世界って、
あんまりすばらしすぎて、誰からも理解してもらえないのね。
人生というものを理解できる人間はいるのでしょうか―その一刻一刻を
生きているそのときに」
演劇の魅力は、人を非日常へと誘う力にあると私は考えている。
その意味で、われわれを目まぐるしく変転する社会から途中下車させ、
今ここにあることの喜びを実感させる力をもったこの小さな書物は、
およそドラマチックな出来事など何ひとつ描かれていないにもかかわらず、
逆説的にも最も劇的な作品となったのである。